インタビュー

INTERVIEW

山出

梅田さんの作品は、常に変化し続けたり、見る人によって意味が異なったりするのが魅力的です。

梅田

僕は作品を通じて、そこにもともとあるものを可視化しているだけなんです。僕らが見ているものや聞いている音は、何かの反射や反響です。それと同様に、環境や情報に対してある現象としてのリアクションを返すというのが僕にとっての創作です。普段から身の回りにあるのに、意識を向けていないことに気付くきっかけとなるような作品であってほしい。それを感覚的な体験に落とし込むことができれば理想的ですね。

山出

別府に対して、どのような印象をお持ちですか?

梅田

地理的にも歴史的にも、自然の荒々しい部分がそのまま人の生活と直結していて興味深いです。掘れば掘るほど湧いてくるような、層の厚い土地だと思います。

山出

2020年1月に初めて別府にお招きしたときは、まだ会場や表現方法にたくさんの選択肢がありました。しかし、その後新型コロナウイルス感染症の影響で状況が大きく変わりましたね。

梅田

大きな「問い」を突きつけられていると感じています。新型コロナウイルス感染拡大を防ぐ目的で、多くのイベントが中止や延期になりました。僕が関わっていた展覧会やパフォーマンス公演などのイベントも、そのほとんどがオープンできなくなったり、開催そのものが立ち消えたりしてしまいました。今現在も、経済的に運営が立ち行かなくなり、継続できないスペースや会場が増え続けています。

一方で、美術、音楽、舞台、どのような表現であれ、「問い」が大きければ大きいほど、創作に結びつくという側面はあります。今の社会が形づくられるよりもはるかに古くから、人は何かをつくったり発表したりしてきました。長い歴史のなかで、何らかの問題に直面したり疑問を持ったりしたことを、人々は創作活動を通じて表現してきたのです。

個々人の活動でいうと、たとえ発表する場がなく、社会から求められなかったとしても、動機さえあれば続けていられるのが創作です。経済活動やコミュニケーションが絶たれた状態にあっても、そのなかで続けていけるような活動のあり方や、発想の引き出しがあると思います。

山出

『梅田哲也 イン 別府』開催にあたり、実行委員会は2020年8月にステートメントを発表しました。それは、どんな辛い状況であっても、想像力をもって地域とともに歩み続けることを大事にしたいという意思を表明したものです。個人的ではありますが、僕は梅田さんの作品をイメージしながらこの文章を書いたんです。

梅田

僕の創作は、まず周囲の状況や環境を観察し、作品の動機やきっかけとなるものを探すことから始まります。このプロセスそのものが、僕の創作の本質なのではないかとすら感じています。
そのなかで、場所や人との関わりから次第に見えてくるものと、僕が持ち込むものとで作品を構成していくのですが、その両者は必ずしも調和することを目指しているわけではありません。ときには場所や土地に根付くものと、周囲の環境や価値観の変化とのせめぎ合いを象徴しているかのような存在になることもあります。いずれにしても、周囲の状況や環境と切り離したところで、作品を発表することはできないと思っています。

山出

今回の作品には俳優の森山未来さんを始め、カメラマン、録音技師、地元の方々など、多くの人が関わっていますが、そこにはどのような思いや経緯があったのでしょうか?

梅田

今回は人との関わりのなかで、有機的に広がったり小さくなったり、編成を変えながら作品制作を進めています。2011年の震災後、人と人との絆の大切さが強調されました。アートやパフォーマンスの現場においては、地域性やコミュニティを地盤とした芸術祭や公演の需要の高まりを感じていましたが、現在の情勢はそのときとは対極的です。しかし、人と関わることが大きく制限されている今だからこそ、裾野を拡げていける手法もあるはずです。それを『in BEPPU』で実現したいと思い、まず最初にこの展覧会の会期と会場を限定しないことに決めました。特定の場所や時間に限定されない体験の一端として、オンラインや書籍などのプラットフォームも活用していけたらと考えています。

山出

いろんな可能性があるということを感じさせてくれる作品になりそうですね。今回の作品で、鑑賞者にどのような体験を提供したいとお考えですか?

梅田

たとえば、自然の風景にはなんの作為も主張もありません。でも、それを見てきれいだと感じたり、恐ろしくなったり、心が動かされた経験は誰にでもありますよね。
作品も同様で、「わかる」「わからない」の軸を基準に作品を鑑賞するのではなく、わからないことも含めて楽しめるものにしたいです。
そして、鑑賞の前と後では普段見なれた風景が少しだけ違って見えるような、そんな作品体験を提供することができたら嬉しいですね。

聞き手:山出淳也(総合プロデューサー)